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大阪高等裁判所 昭和33年(ネ)1486号 判決

控訴人 室井二一

被控訴人 吉田義一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張は、

被控訴人の方で、

控訴人主張の管理命令は被控訴人に送達されていないから無効であるばかりでなく、控訴人主張の不動産競売事件は昭和三二年一一月二九日債権者株式会社神戸銀行の競売申立取下により終了したから、右事件について発せられた管理命令は当然その効力を失つた。従つて管理費用及び被控訴人の承諾なくして支出された費用の支払を被控訴人に求めることは許されない。

と述べ、

控訴人の方で、

控訴人は、債権者株式会社神戸銀行と債務者被控訴人との間の神戸地方裁判所昭和二六年(ケ)第二一号不動産競売事件について同裁判所が昭和二八年一月一九日発した不動産管理人変更命令に基き本件家屋に居住しているものであり、約五年間に三〇万円以上の管理費用を支払つているのであるから、たとえ右事件について競売申立の取下があつたとしても、右管理費用が支払われない限り、管理命令が取り消されるはずはない。そうでなければ管理人の地位は甚しく弱いものとなり、安心して管理の責を尽すことはできないからである。控訴人は右管理命令によつて本件家屋の管理にあたる際、前居住者長岡末蔵に対し立退料一一万円を支払い、また管理中畳、建具の修理に五万円以上を支払つた。そこで控訴人は右管理費用または有益費である右立退料修理費の支払を受けるまで本件家屋について留置権を行使する。

と述べたほか、いずれも原判決事実記載と同一であるから、これを引用する。

当事者双方の証拠の提出援用認否は、

被控訴人の方で、甲第三号証の一、二を提出し、乙第一、第二号証の成立を認めると述べ、

控訴人の方で、乙第一、第二号証を提出し、当審における控訴人本人尋問の結果を援用すると述べたほか、

いずれも原判決事実記載と同一であるから、これを引用する。

理由

原判決添付目録記載の家屋が被控訴人の所有であること、控訴人が右家屋に居住しておること、債権者株式会社神戸銀行と債務者被控訴人との間に神戸地方裁判所昭和二六年(ケ)第二一号不動産競売事件が係属したことのあることは当事者間に争がない。

控訴人は、右不動産競売事件について発せられた不動産管理人変更命令に基き右家屋に居住しているものであると主張し、成立に争のない乙第一、第二号証、当審における控訴人本人尋問の結果によると、神戸地方裁判所は昭和二八年一月一九日右不動産競売事件について右家屋に対する前管理人古市一夫を解任し、控訴人を新管理人に選任し右家屋に対する債務者・被控訴人の占有を解き、控訴人にその管理をすべきことを命ずる旨の不動産管理人変更命令を発し、右命令は同月二一日被控訴人に送達されたことを認めることができるが、成立に争のない甲第二号証、第三号証の一、二、当審における控訴人本人尋問の結果によると、右不動産競売事件は昭和三二年一一月二九日債権者株式会社神戸銀行の競売申立取下により終了し、控訴人も昭和三三年中にこの事実を了知した事実を認めることができる。管理人が管理命令に基き不動産を管理すべき権限は、管理命令の発せられた事件の係属を前提とするものであつて、その事件が終了した場合、特に管理命令を取り消すことを要するものでなく、遅くとも管理人が事件の終了を了知した時に管理人の権限は消滅するものと解するのを相当とする。たとえ控訴人がその支出した管理費用の支払を受けていないとしても、管理人がその権限のあつた間に支出した管理費用は、その権限消滅後であつても、支払を受けることのできるのはいうをまたないから、管理費用の支払をした後管理命令を取り消すことを要するとの控訴人の見解は採用しない。

控訴人は、管理費用または有益費である立退料修理費の支払を受けるまで右家屋について留置権を行使すると主張するけれども、当審における控訴人本人尋問の結果によると、控訴人は右家屋に居住するためこれを取得しようとし、右不動産競売事件において川端純子名義で競落許可決定を受け、当時右家屋に居住していた長岡末蔵に移転料及び明渡料として一一万円を支払つて立ち退かせ、当初古市一夫が管理人に選任されたが、その後前示のとおり自ら管理人に選任され、右家屋に居住するに至つた。その後ガラスを二〇枚か三〇枚入れかえ、畳一〇枚を表替したことを認めることができる。右認定に従えば長岡末蔵に支払つた移転料、明渡料一一万円は本来の管理費用に属するものでもなければ有益費にあたるものでもなく、右ガラス入れかえ、畳表替に要した費用が何程であるかを確認することができないばかりでなく、その価格の増加が現存することも認めることはできず、他に控訴人が被控訴人に対し右家屋に関して生じた債権を有することを認めるに足りる証拠はないから、控訴人の右主張は採用できない。

そうすると、控訴人は右家屋を占有する権原を有するものでないから、被控訴人に対しこれを明け渡すべき義務があるものであつて、被控訴人の本訴請求を正当として認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。そこで民訴法三八四条八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 熊野啓五郎 岡野幸之助 山内敏彦)

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